君を見つけてごめんね
好きな役者さんがいる。
俳優、と呼ぶと「そんなたいそうなものじゃないよ」なんて謙遜するので、役者さんと呼ばせてもらう。いわゆる小劇場役者で、劇団に所属しているような感じの人だ。事務所には所属していない。友達に誘われて行った舞台に出演していた人で、終演後の面会で話をさせてもらい、ころりと落っこちてしまった。舞台や演技の裏話をこっそり教えてくれるところとか、どんなに仲良くなっても絶対に客として扱ってくれるところとか。飄々としていて掴み所がないけれど、いろんなことを考えている人。
この人のまた違った役が見たいと思ったので感想としてそう伝えたし、出演舞台は欠かさず行った。
先日も舞台に出演していた。
いつも通り面会で挨拶をさせてもらっていたときに、「この先はどうなるかわからない」ということをこっそりと話してくれた。
いつも面会に出てくれるので、話ができなくなってしまうのは悲しいけど、じゃあ連絡先を交換して友達になりたいのかと聞かれれば、それはまた違う気がする。でも、出演してもらえなければ話をすることもできない。いつもありがとうねと言ってくれるけど、それに対してこちらこそ出演してくれてありがとうとちゃんと言えていただろうか。小劇場役者、劇団役者がそれだけで満足に生活していくことはなかなか難しいという現状も知っているつもりなので、また出演してくださいとも、お願いだからやめないでくれとも言えない。(言ったけど)
役者として舞台に立ちたいという思いとは別に、本人の事情、家の事情と言われればそれ以上は首をつっこむ余地もない。一身上の都合で役者という仕事を退職することを、転職を考えている私が止めることはできない。
かわいい役もできれば渋くてかっこいい役にもなる。
真面目な役も、おちゃらけた役もできる。
外見が年齢不詳だから、幅広い年の役をやる。
どの作品に出ても必ずやる仕草が面白い。
あまりに徹底して客として扱ってくれるから、面会のときですらどこまでが本当でどこまでが演技なんだろうと思うことがあるけど役に入りきって泣いているときはああちゃんと人間だなと思える。(失礼)
私はその人が、舞台に立っている姿が一番好きだ。
「どうなるかわからない」と言われたので、もしかしたら何かに出演してくれるかもしれない。でも、してくれないかもしれない。
この人が舞台の上でライトに当たっている姿を見るのはこれが最後なのかなと思い泣きながら千秋楽の舞台をみた。面会で大泣きして困らせてしまった。
ここが良かったってもっと言えばよかったのかなとか、もっと回数行けばよかったのかなとか、あれは言わないほうがよかったのかなとか、これがだめだったのかなとか、考え出したらキリがない。例えば手が届かないほど売れて有名になって、面会に出なくなって、話ができなくなっても構わない。
まだ舞台に出ている姿をみていたかった。
舞台に関わっている姿をみたかった。
なにを言っても気が済むことがないのはわかってるけどこんなに気が済まないのはきっと、良かったよってもっとたくさん言えばよかったっていう後悔があるからにほかならない。
どうしたら、役者をやめないでいてくれますか。
結局何が言いたいのかよくわからなくなっちゃったけどそのときのモチベーションだとか、自分の都合とかはいろいろある、でも、見れるうちに見て、そしてここからが重要で、感想が言えるうちに言うのがいいよって、推しがいる人全員に(大声で)言いたい。
言えなくなる前に、ね。